アルバムのリリースを目指して作業していたのですが、ここしばらく家族の入院をはじめとする不運が続いており時間がとれないため、一旦断念して完成済みの2曲だけサブスク配信します。
2曲と言いつつ1曲は既発曲の再録なのですが、DTM初心者すぎて以前は実現できなかった部分が、今回は概ねイメージ通りに仕上げることができました。
ただ、既に配信済みの曲をリメイクすることや、「シングル曲をあとからアルバムにも入れる」ということについて、現代の音楽制作における検討事項が色々出てきました。
使ううちにわかってきたROUTER.FMのデメリット
まず、始めた頃にはちゃんと理解できていなかった、ディストリビューター(サブスク配信の代行業者)選びの注意点についてです。
音楽サブスクへの配信にはディストリビューターの仲介が必要であり、複数のサービスから自分に合うものを選定しなければなりません。
その費用についても、年額あるいは月額の固定費用制もあれば、リリース時に払いきりというのもあります。
そして、配信にかかる金額にもサービスの品質にもかなり幅があります。
日本語で利用できるサービスで一番間違いないのはTuneCore Japanでしょうが、年間の維持費がかなり高額なのがネックです。
しかし、無料サービスや安価なサービスは不採算による撤退のリスクがあります。
実際、2025年にはsprayerが突如としてサービス終了しており、日本の会社であっても安心ではないことが分かります。
さて、私はディストリビューターとしてクリプトン・フューチャー・メディアのROUTER.FMを利用しています。
今後継続して楽曲制作を続けるにしても数はさほど多くならないであろう私にとって、「配信タイトルごとに払い切りで年会費不要」というシステムは魅力的に映り、費用面のメリットからこちらを選びました。
ただ、実際使っているうちに「他のサービスではできるのにROUTER.FMではできないこと」が見えてきました。
①YouTubeオフィシャルアーティストチャンネル化のサポートがない
YouTubeには「オフィシャルアーティストチャンネル(OAC)」というものがあり、目印としてチャンネル名の横に♪マークが付きます。
楽曲管理のうえで、YouTubeアカウントをOAC化するのはミュージシャンにとって重要ですが、その手続きは個人ではできず、楽曲配信を依頼しているディストリビューターを経由してYouTubeに申請する必要があります。
TuneCoreやDistroKidはこの申請のサポートをしてくれることが明示されています。
ところが、ROUTER.FMはこのOAC申請をやってくれません。
私は「配信した曲のYouTube上での紐付けがおかしなことになっていた」という特殊事情があってROUTER.FMに相談したことで、結果的にPHILOSODOMYのYouTubeチャンネルをOAC化できたのですが、通常これに対応してもらえないのは大きなデメリットです。
②一度リリースした曲を取り下げる機能がない
これは今回調べて驚いたのですが、配信した曲を削除する操作がそもそもできません。
問い合わせても「配信停止は受け付けていない」という回答でした。
これもちょっと厳しくて、いくつかのディストリビューターのウェブサイトでは(権利を失った等の理由が必要とはいえ)「自分で配信取り消しの申請ができるようになっている」という前提があります。
私に限らずアマチュアやインディーズのミュージシャンだと、事情により過去作品を取り下げたいというケースはあると思いますが、ROUTER.FMでは過去リリースの削除は原則できないと思った方がいいです。
曲名に「アルバムバージョン」とかは付けたくない
現代の音楽制作に欠かせない前提として、ISRC(International Standard Recording Code…国際標準レコーディングコード)というものがあります。
これは曲ごとに割り当てられる、12桁の固有識別番号です。
この番号が曲に振られていることで、例えばシングル配信した楽曲をそのままアルバムに収録すれば、同一ISRCであることにより再生回数を通算することができます。
重要なのは、これが「同じ曲なら同じISRC」という単純なものではなく、「ライブバージョンやボーカルを抜いたカラオケバージョンは別のISRCになる」という点です。
ただし、日本レコード協会のウェブサイトの「よくあるご質問」ページには、「通常範囲内でのEQ処理、LIM/COMP処理」「10秒以内のフェードイン・フェードアウト」について同じISRCを使用する事が望ましいとあります。
これだけ見ると、権利管理上の識別においては、「ちょっとしたマスタリング違いや、曲間を調整するためのわずかな空白の長さの違い程度であれば、同じISRCで全く問題ない」ように思えます。
他方、配信ディストリビューターのFAQや、実際に配信リリースしている人の発信している情報を信じるなら、この点をかなり厳密に解釈して「少しでも変更を加えたらそれは別のデータであり、ISRCも改めて取得するべきである」という考え方になってきます。
果たして事実なのか、また事実にせよ実際どれくらい厳密なのかは分からないのですが、サブスクサービス側で「同一ISRCにもかかわらずデータに差異がある」と判定された場合、配信がうまくいかない可能性があるという話もあるようです。
こうなると、サブスク配信上のトラブルを避けることを最優先して安全策を取るなら、シングルとして配信した「A」という曲をアルバムにも収録する際、少しでもいじったらそれは全く同じ「A」という曲名にはせず、配信上は別の曲「A'」として区別する必要がありそうです。
とすると、もし先にシングル配信した曲を後からアルバムにも収録したい場合、大きく2通りの選択肢が出てきます。
①音質の統一感を優先する
→既発シングル曲をアルバムに入れるときに、ミックスをやり直したり、アルバム全体のサウンドに統一感を出すためにマスタリングを変えたうえで、曲名に区別として(Remastered)あるいは(Album Version)などと付けたうえで、ISRCも振り直す。
②曲名の統一感を優先する
→先にシングルで出した曲の完全同一データをアルバムに収録すれば、トラックリストには純粋に曲名だけが並ぶことになるが、アルバム収録の際に手直しができない。
アルバム収録時に「手直しをしつつも余計なカッコ書きを付けない」ための方法としては、シングル配信の時の曲名にシングル版と分かる符号を付けるという逃げ道もあるでしょうが、色々悩んだ末、今の自分にできるベストな音質を目指したうえで、今回は②の方法をとることにしました。
今後アルバムを作成するにあたり、曲間の1秒以下の空白の差異は大丈夫だろうと判断して微調整をする可能性はありますが、それも一応リスク承知のうえでやる必要があるのかもしれません。
こういうこと考えたくないからアルバムとして出したかったんだよな。
ロゴのアレンジ
自作の従来ロゴは気に入っていたのですが、試験的にSUZURIでTシャツに刷ってみた際、線が細すぎてデザイン的に弱いことが気になりました。

それもあって、これまで何度か試験的に装飾を書き加えてはみたものの、毎度「なんか違うな…」と没にするのを繰り返してきました。
今回やってみたアレンジは割りと気に入ったので、そのままジャケットに採用しました。

ロゴを複雑化するのはDEATHの流儀に逆行するのですが、これを正式版にするかもしれません。
1.Inhuman Deceiver
1曲目は、2024年に人生初の一人バンド音源として作成した楽曲「Human Cattle Dignity」の再録版です。
旧バージョンは、録った当時「演奏活動歴はそれなりに長いのに形があるものを何も残さず30代が終わってしまう」という焦りもあって、妥協による後悔が残る出来でした。
その「本当はもっとこうしたかった」を、なるべく頭の中にあった形のまま再現し、歌詞も一から書き直したのが本シングルの一曲目です。
具体的な変更点として、イントロのアルペジオをアコギにし、クランチギターはフェードイン。
ギターリフの細かい変更に加え、ユニゾンだったオブリガードは5度を重ねたDEATHハモリに。
ソロも大筋はそのままですが、ベースソロのバッキングでベースを弾くようにしたり(←よく考えたらベースソロの間はバックでベースが鳴ってない風潮おかしいよな)、フレーズも色々変えています。
ちょっとだけ重く聞かせたくてBPMは少し落としました。
歌詞を刷新したことに伴い、曲名も「Inhuman Deceiver」と変更しました。
以前の歌詞も適当だったわけではないのですが、ステレオタイプなメタル然としていたというか、特に明確なテーマもありませんでした。
今回、真面目に歌詞を考えたきっかけの一つが、2025年9月にAT THE GATESのTomas Lindbergが亡くなったことです。
彼の生前の何かのインタビューで「歌詞はホラー映画のようなものではなく現実に根差したものであるべきだ」的なニュアンスのことを言っているのを読んだことがあり、新しい歌詞では私の個人的な経験からくる人生観、「『あなたを助けに来た』かのような顔をしているそいつは本当に味方か?」という猜疑心をテーマにしています。
歌詞を変えつつも元のボーカルラインで気に入っていた箇所には近い単語を乗せる等、アレンジ的にもうまくいったと思います。
この曲に限らず、歌詞を日本語にするか英語にするかはかなり悩みました。
言語が一瞬で高精度に翻訳できる昨今、創作表現で内心を表現するには、自分の母語を用いることが最も確実なのは間違いありません。
少数言語のメタルバンドも各国から出てきている時代です。
しかし、やはり個人的な好みとして、エクストリームメタルのリズムに日本語を乗せるのはかなり難しいと感じます。
Alexi Laihoも生前「Children Of Bodomでは英語が一番自然に聞こえる、フィンランド語は使わない」と発言しています。
若いころに自分が目指した在り方に従うべく、歌詞は英語にしました。
ただ、この曲に関しては懸念点があって、旧バージョンとのデータ上の類似によってサブスク側で配信を止められてしまうリスクがあります。
要は「同じ曲をタイトルだけ変えて新曲として出した」かのように判定される可能性がある、ということです。
それがあるから旧バージョンは取り下げたかったのですが、前述の通りROUTER.FMはリリース済み楽曲の配信停止ができないわけで、当初の想定通りとはいきませんでした。
(※なお、この類似の判定については旧バージョンの取り下げ有無にかかわらず変わらないようです。)
この点については配信日を過ぎたらしばらく様子見です。
2.Under The Waves
本来ならアルバムのラストに入れるつもりだった曲なので、シングルとして出すべきか迷ったのですが、昨今の世界情勢に鑑み、このタイミングで公開することにしました。
私が長年頭の中で組み立てていた慟哭メロデスの素材を一つに組み上げたものであり、作成中はそこまで意識していなかったのですが、今となっては反戦のメッセージが強く出た歌詞となっています。
ストーリーとしては安徳天皇入水を下敷きにしており(だから壇ノ浦の戦いの日である4月25日リリースにした)、世が世なら不敬の誹りを免れない内容かもしれませんが、人の親としての思いを詰め込んだ内容です。
短いベースソロでは、プラグインエフェクトで再現できないボリュームスウェルをかけるため、実機エフェクターとしてエレハモのPico Swelloを繋いでいます。
最初は音数の多いソロだったのですが曲に合わず、どんどんシンプルにしていった結果、ほとんどCYNICのKindly Bent To Free Usになってしまいました。
その後、複数のフレーズで録り直したのですが、このテイクを超えるものは出せず、Sean Maloneへのリスペクトを込めてそのまま採用させてもらいました。
なお、今回の2曲はドラムを打ち込みではなく指ドラムでMIDI録音しています。
これをやると時間がかかりすぎるので今後はやらないことにしたのですが、この曲では機械的でないリズム感がうまく作用したと感じています。
アレンジ上、随所に様々な意図を込めています。
今後の計画
というわけで本来ならとっくにアルバムが完成している予定だったところ、このペースでは何年かかるか分かったものではありません。
曲のストックは既にあるので、隙間時間を有効活用しつつ、今後はこだわりすぎないことも意識しながら作業を進めていきたいと思います。
仕様上まだサブスクへの歌詞登録はできていないので、気が向いたらまた歌詞も含めて聴いていただけると嬉しいですね。
