「自分の子供が特別支援学級に入るのをただただ嫌がって、学校から勧められてもなお強硬に普通学級に入れさせたがる親がいるらしい」ということを知ってはいましたが、身近なところにも実在していることが判明してドン引きしています。
それ自体はもちろん1つの考え方だと思うのですが、周りからどれだけ言われても全く考えを変えないのが解せないのです。
息子が発達障害グレーゾーンであり、自分自身も発達障害である私としては、完全に「うちの子が支援学級に入れて良かった」「自分の頃は発達障害で特殊学級に入るなんて選択肢はなかった、いい時代になった」という感覚でいたので、今回はそのへんについて書いてみます。
かつての「特殊学級」のイメージ
小学生の子供がいる親世代の多くは、「特別支援学級」よりも「特殊学級」という呼び名に馴染みがあるのではないでしょうか。
そして、そのような学級について、あくまで「知的障害のある児童のためのクラス」というイメージが強い方も多いと思います。
私自身、かつて通っていた小学校の「なかよし学級」に在籍していたのは、多少なりとも明らかに知的な遅れがある生徒だけでした。
私は、幼少時から発語や音読、対人コミュニケーションに難がありました。
とはいえ実際のところ、学業成績には問題がなかったため、小学生だった当時にこの「特殊学級」に通うという選択肢は全くなかったのだと思われます。
しかし、私はその一方で、「授業中は立ち歩きたいのを必死に我慢しているので先生の授業は頭に入っていない」、「体育の団体競技はルールが全く理解できずまともに参加できない」、「教科書の音読では読むべき1行以外の箇所を隠さないと読めない(自作の器具により高学年でようやく克服)」という状態でした。
小学校のテストの点が良かったのは丸暗記で乗り切っていただけだったため、国立の中高一貫校を受験して入学した結果、「小学生の頭で丸暗記できるレベルを超えた学習内容には全くついていけない」ということが露呈してしまい、一時期は完全に落ちこぼれてしまいました。
現在の「特別支援学級」
では、現在の「特別支援学級」とはどのようなものなのでしょうか?
呼び名が「特殊学級」から「特別支援学級」に変わったのは2006年のことです。
そして、どのような場合に特別支援学級の対象となるのかは、以下のとおり学校教育法第81条(※抜粋。太字・下線は筆者による)に定められています。
一 幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校及び中等教育学校においては、次項各号のいずれかに該当する幼児、児童及び生徒その他教育上特別の支援を必要とする幼児、児童及び生徒に対し、文部科学大臣の定めるところにより、障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うものとする。
② 小学校、中学校、義務教育学校、高等学校及び中等教育学校には、次の各号のいずれかに該当する児童及び生徒のために、特別支援学級を置くことができる。
一 知的障害者
二 肢体不自由者
三 身体虚弱者
四 弱視者
五 難聴者
六 その他障害のある者で、特別支援学級において教育を行うことが適当なもの
知的障害をはじめ、一~六に列挙された障害に該当しなくても(すなわち障害者手帳未取得の発達障害グレーゾーンであっても)、「教育上特別の支援を必要とする」のであれば、特別支援学級に入るかどうかは柔軟に決められるように書かれています。
これが大きなポイントです。
「通級」という第3の選択肢もある
そして、1993年に正式にスタートし、現在は全国的にかなり一般化しているのが「通級による指導」です。
「普通学級で全ての科目を受ける」あるいは「特別支援学級で1日中ずっと過ごす」のではなく、授業ごとに普通学級で皆と受けたり、特別支援学級で少人数で受けたりするのが通級です。
我が家のグレーゾーン長男のケース
さて、ここで我が家の事例を紹介します。
私の長男は小学1年生です。
まだ明確な診断はついていないものの、発達検査で発達の大きなバラつきが指摘され、いわゆる「発達障害グレーゾーン」として幼稚園の頃から療育に通っていました。
現在は小学校で通級による指導を受けつつ、週に2回、放課後等デイサービス(※要は障害児向けの学童保育みたいなもの)に通っています。
その長男が幼稚園年長の時点で、私と妻は「特別支援学級か通級か、少なくともいきなり普通学級はありえない」という認識で一致していました。
同世代の子と比較してできないこと・苦手なことの多さや、学習に関する興味関心のバラつき、何より「声かけがなければできないことが多い」ということを考えたときに、定型発達の同級生30人以上と一緒に授業を受けさせるのは本人にとって多大なストレスになることが容易に想像できたのです。
そして、年長の夏ごろに実施された就学相談でも通級を提案され、特に何事もなくそのように決まりました。
ところが、この就学相談で特別支援学級の提案を受けたにもかかわらず「うちの子供は普通学級に行かせろ」とゴネる親がいるという話です。
親のエゴで子供を不幸にするな
「我が子を普通学級に行かせたい」という気持ち自体は理解できます。
最初に書いた通り、昔の特殊学級をイメージしてしまうケースは多いでしょうし、仲間外れやいじめも心配です。
しかし、目先のことではなく長期スパンで子供の将来のことを考えるのであれば、発達障害傾向のある子供を普通学級に丸一日いさせるのはデメリットが大きすぎると思います。
発達障害のある子は、勉強にせよ何らかの作業にせよ、手順を理解するのに補助が必要だったり、長い時間がかかるような場合が多いです。
ですが、30~40人が在籍する普通学級では、1人にそのようなリソースを割く余裕はありません。
結果どうなるかというと、「誰かがやってくれる」か「できないまま放置される」のどちらかが常態化するおそれがあります。
「自分でやらなくてもいいや」と受け身になるか、「どうせできないから」と自信をなくして投げやりになるか、いずれにしても将来的に本人のためにならないことは間違いないでしょう。
最悪の場合、「全く内容が理解できない授業に1日中座っているだけ」ということにもなりかねません。
そのあたりを完全に無視して「うちの子は普通学級に行かせてください!大丈夫なので!」というのは、親の見栄でしかないと思います。
発達障害の子供を無理に普通学級に通わせると、親はそれで満足でも、当の本人は「支援学級に行ってるわけでもないのに普通のことが全然できない奴」というレッテルを貼られるのです。
それって要は同級生から「ただのバカ」扱いされるということですよ。
子供自身が普通学級を強く希望しているならまだしも、親だけの考えでそんな事態を招いていいわけがありません。
発達障害児の目標ラインをどこに置くか?
最近見たとある記事にも同じ趣旨の内容が書かれていたのですが、発達障害を抱える子供にやってあげるべきことは「小学生の時点で同級生と同じレベルのことができるよう目指すこと」ではなく、「18歳の時点で同級生と同じ選択肢が持てるようにすること」だと思っています。
私自身や、同じく発達障害を抱える知人の経験からしても、発達障害とはいえ「苦手なことが一生できない」ということは決してなく、遠回りしつつも結構色々できるようになるものです。
なんせ私は「人と話している途中にいきなりその場を立ち去ったらダメなんだ」と気付いたのが中学生になってからですし、「大きい声で挨拶をするだけで人間関係が円滑に回るんだ」と理解したのは転職して2社目の会社に入った20代後半の頃です。
最終的な目標地点を「お金を稼いで自立できる大人になること」に設定するのであれば、小学校の勉強が同級生と全く同じにできる必要はないはずです。
むしろ、遠回りしてでも特別支援学級で丁寧に学習を進めることでこそ、18歳になった時に「勉強したい学部がある大学を受験する」という選択肢が選べる可能性が高くなるのではないかと思います。
これは「発達障害も大学に行け」という趣旨ではなく、もちろん就職でも専門学校でも何でもいいのですが、18歳時点で「そもそも大学進学という選択肢が1mmたりとも無い」のとはやはり違うでしょう。
私自身だけでなく、親戚や友人、SNSで知り合った方の中にも、幼少時から苦労を重ねて「自分も小さい頃に発達障害ってのが知られてればなあ」という思いを持つ当事者はたくさんいます。
小学校入学時は特別支援学級スタートでも、卒業するころには普通学級で1日過ごすようになるというケースもあるようです。
もちろん、特別支援学級に入れるべきかどうかは個別事例によって大きく異なるでしょう。
しかし、就学相談等で実際に特別支援学級をすすめられたのであれば、その判断に際しては「親の立場」よりも「子供の選択肢を増やすこと」をぜひ優先してあげてほしいと思うのです。