昨年発売されて気になっていたIbanezのベースがあったのですが、アウトレット品が以前見た中古品よりもさらに安い価格で出ているのを見つけ、思わず購入してしまいました。
Talmanシリーズの5弦ベースで、30インチのショートスケールでありながらも、BEADGという一般的な5弦ベースのレギュラーチューニングを採用しています。
このベースについて、「一般的な34インチ用の弦を張るにはどうしたらいいか」を考えてみましょう。
TMB35の概要
Talman Bassは現在いくつかのモデルがラインナップされており、海外では34インチスケールの5弦ベースであるTMB505やTMB105といった複数のモデルが流通していました。
そこに、ようやく日本で販売された5弦モデルが、この30インチのTMB35です。
ボディはポプラ、ネックはメイプル、指板はジャトバです。
ピックアップはPJレイアウトで、コントロールは2ボリューム・1トーン。
弦間ピッチは18mmとなっています。
体重計に乗せてみたところ、重量は3.5kg程度です。
スケールとサイズ感
30インチというと、一般的な34インチよりも10cm以上短いスケールです。
にもかかわらず、このベースは最低音ローBのレギュラーチューニングとなっています。
出荷時の弦のゲージは.045~.130で、この専用弦(ステンレス弦と思われます)が1セット付属します。
で、現物を見ると想像以上に小さいです。
付属のケースは一般的なベース用のソフトケースなのですが、見てのとおりヘッドの上がスカスカに余っています。
試しに手持ちのギター用ケースに入れてみたところ、普通に収まってしまいました。
ボディの横幅(横幅?)はFender系の楽器のようにガッシリあるので、「抱えたときに小さすぎる」的な方向の違和感はありません。
弾き心地と音の特徴
私は低身長で、ちょっと恥ずかしいので数字は伏せますが、日本人成人男性の平均よりもけっこう背が低いです。
34インチや35インチのエレキベースは単に「慣れているからまあ大丈夫」というだけで、サイズを持て余す感を抱きながら長年ベースを弾き続けてきたのが正直なところです。
その割りに、今までショートスケールのベースを弾く機会はありませんでした。
そんな私にとって、初めての30インチは正直驚くほどの弾きやすさでした。
フレットの間隔がどうこうというよりは、とにかくローポジションが近いのが良いです。
左手が体の近くにあるだけで、体感的なストレスがないというか、具体的には左手の各関節に無理をさせている感じがかなり少ないです。
スケールが短いとテンションが弱いのではないか?という疑問については、これは完全に私の好みですが、特に問題なしという印象です。
ただ、私は以前から「34インチのエレキベースに.045~.105みたいな弦を張るのは硬すぎて弾けない」と考えているので、一般的な弦の張力で弾き慣れている人にはかなり柔らかく感じるかもしれません。
安い楽器ですが、オリジナルのピックアップも意外と悪くありません。
低音弦がちょっとボワつくというか、反応が若干ダルい感じがする点については、弦のゲージを太くすることで張りを出すという考えもあるのでしょうが、個人的にはデフォルトの.045~.130よりも細い弦を張って、出音を軽やかにする方がバランスが取れるのでは?と感じます。
20フレットというのはちょっと音域が狭いですが、フロントがPタイプのピックアップということも相まって、ピックでガシガシ弾く軌道上の空間が非常に広くとられているので、このベースの良さを引き出す一つの手としてそういう演奏がしたくなります。
悪い点
このご時世でスタジオやライブで音を出せるのがいつになるか分かりませんが、現時点でいくつか欠点が見えてきました。
ヘッド落ちがひどい
てこの原理で考えれば、ボディ形状が同じであれば、スケールが短い(=重りとなるヘッドが支点に近い)方がヘッド落ちはしないものです。
その観点でいくと、他の条件を揃えさえすれば「ショートスケールの方がロングスケールよりもヘッド落ちはしにくい」と言えます。
しかし、Talman Bassは同じIbanezのSRやBTBと比べても、ストラップで下げたときのバランスが悪いです。
かなり軽量なボディ材に対し、ヘッドには重量感のあるペグが5個ついているので、もう「ズドーンwww」ぐらいの勢いでヘッドが落ちます。
これは軽量ペグへの交換などを試してみたいところです。
ボリュームノブが近い
フロントボリューム・リアボリューム・トーンという3ノブのコントロール構成ですが、フロントボリュームの位置がちょっと近すぎてあんまり好きじゃないです。
Talman Bassの他のモデルは、スタックノブでコントロールが2か所にまとめられており、その方が見た目的にはすっきりしています。
適当にピックでガリガリ弾いているとフロントボリュームのノブが小指に当たることもあるので、このノブの配置はどうにかしたいところです。
(※なお、Talman Bassのアクティブのモデルには画像赤丸部分にジャガーのようなスイッチがあり、製造工程が共用でザグリがあったらそこにピックアップ切り替えスイッチでも…と思ったのですが、残念ながらザグられてはいませんでした)
弦とピックガードが遠い
私はスラップなんか全然できやしないんですが、極厚のピックガードがあればまだなんとかなる派です。
しかし、このベースはピックガード面から弦までの距離が1cmほどあり、指が完全に入るほど隙間が広いです。
上記のコントロール配置の件と合わせて、分厚いピックガードへの交換や2枚重ね等も検討したいところです。
ロングスケール用の弦が張れない
「短い弦をロングスケールのベースに張ろうとしたら長さが足りないのは分かるけど、長い弦は短いスケールの楽器に張れるんじゃないの?」と思っている人が多いのですが、基本的にロングスケール用の弦はショートスケールのベースに張れません。
ロングスケール用の弦は、低音弦において太い部分がそのままペグのところまで来てしまうことが問題になります。
E弦やローB弦の太い部分はそもそもペグポストのスリットに入らないことが多く、弦をペグに巻き付ける事すらできないのです。
そして、弦の先端の細い部分から巻き始めても、巻き付けが多すぎてチューニングを上げきることができません。
したがって、一般的なベース弦を短いスケールのベースに張るには何らかの工夫が必要になります。
長い弦を張るための改造案を考える
そもそも、低音弦のペグがナットから遠く(=ヘッドの先端)に配置されてさえいれば問題なくロングスケールの弦が張れるわけで、「汎用の弦が使えるようにリバースヘッドにしといてくれよ」というのが正直な感想です。
ともあれ、せっかく買ったTMB35にロングスケールの弦を張れるようにする解決方法を考えてみましょう。
(ペグの加工やヘッドレス化改造は難易度的に個人では難しいので今回は無しです。)
ロングスケール(34インチ)とショートスケール(30インチ)の差は4インチ、10.16cmあります。
34インチ用の弦を張るためのイメージとしては、
・ボールエンドをブリッジから引っ張り出した状態で固定する
・ペグの位置をヘッド先端に向かって移設する
これらのいずれかの方法、あるいは両方を併用することによって、10cm強というスケールの差を吸収することを目指す必要があります。
以下、楽器本体への改造が少なく済む順に、ショートスケールのベースにロングスケールの弦を張る方法の案を列挙していきます。
1.弦をほどく(楽器自体の改造は不要)
これは個人的に一発で断念したやつですが一応書いておきます。
実際にやっている人も見かけるのですが、弦を張り替える度に弦の太い部分をほどくのはかなり面倒です。
作業時には怪我をしないように手や目の保護も必須かと思います。
とはいえ、楽器本体に一切改造を加える必要がないのはメリットでしょう。
2.ボールエンドの位置をずらす
ここからは「ボールエンドの位置をヘッド側から見て遠ざける」という方向の解決策です。
2-1.金属パイプ等に弦を通す(改造不要)
細い金属パイプを介して弦をブリッジに通すことで、長い弦をショートスケールのベースに張ることができます。
そのような素材を所持していないので、実際にやったらどうなるのか、ストローに通して試してみました。
うん、こんなもんがブリッジから10cmも伸びてたら嫌ですね。
2~3cm程度ならともかく、ここまではみ出してしまっては、楽器を立てかけることもできません。
2-2.裏通しによりブリッジサドル~ボールエンド間の距離を伸ばす
弦をボディの裏から通す「裏通し」の楽器には個人的にあまり良い印象がないのですが、ブリッジから離れた位置に穴を開けて裏通しにすれば、ある程度はボールエンドをサドルから遠ざけることが可能でしょう。
ただ、ボディエンドギリギリの赤丸のあたりに穴を開けたとしても、最大でプラス5cm程度にしかなりません。
2-3.テイルピースから弦を張ることでボールエンド-サドル間の距離を伸ばす
WarwickのベースやHipshotのD Styleブリッジのような、サドル部分とテイルピースが分離したブリッジであれば、テイルピースの配置によってボールエンドを遠ざけることができます。
ただ、この方法で吸収できる長さは3cm程度にしかなりません。
かなり強引な方法ですが、ボディ裏にテイルピースを設置してそこから弦を張るというのも一案でしょう。
(そういえばNS Designのアップライトベースがそういう構造ですよね。)
3.ペグの位置を変える
先に書いた通り、最初からリバースヘッドにしてくれていたら、ベース自体がショートスケールであってもロングスケールの弦が問題なく張れるはずです。
そこから着想を得て、この2:3のペグ配列のヘッドでどうにかB弦のペグを遠ざけられないかを考えます。
ここで思い出したのが、FoderaのExtended Bです。
HipshotのUltraliteのような、ハウジング部分が小さいペグと交換すれば、配置の面でも特に問題なく似たようなことができるのではないかと思います。
要はこういうこと↓です(※ペイントを駆使した雑コラ)。
B弦のペグが一番遠くなるように配置し、弦は反対巻きにします。
このB弦のペグには高音弦側のペグを天地逆にして使えば、B弦とE弦でペグを回す向きが変わってしまう心配もありません。
ただ、最初はいいアイデアだと思ったんですが、これを綺麗にやるのは素人工作では難易度が高すぎることに加え、これだと結局E弦はナットからペグが近すぎて太い弦が張れないままになりそうですね。
という感じで、弦の調達が難しいのはデメリットですが、それを補って余りある楽しい楽器だと思います。
単にショートスケール用のローB弦があまり流通していないというだけなので、「ショートスケール用の4弦+ハイCの細い弦」という運用も面白いかもしれません。
【後日追記】Ibanezから専用弦発売
と思っていたら専用弦が発売されていました。