音楽をサブスク配信で楽しむことは完全に一般化し、リスナーとしてどのサブスクサービスを使うかは個人の好みに委ねられます。
その上で、よく「このサービスは使わない」と槍玉に上がるのがSpotifyです。
そして音楽を作る側としては、聴くのに使うかどうかだけでなく「Spotifyに楽曲を配信するか否か」という問題も出てきます。
なぜSpotifyが嫌われるのか
Spotifyといえば、現在の定額制音楽配信サービスの先駆けであり、シェア1位の定番です。
にもかかわらず、名指しで批判されるばかりか、実際にSpotifyから撤退したミュージシャンや、新作をSpotifyで配信しないというミュージシャンもいます。
これには大きく2つの要因があります。
①収益性
よく「Spotifyはミュージシャンの取り分が少ない」といわれます。
これは数字を公開している人の間でも意見が異なっていたりするものの、実際私の身近なところでも「総再生数はSpotifyが一番多いのに、収益額はApple Musicからの方が多い」というような話を聞いたことがあります。
要は、再生数にかかる単価が安いということです。
ただ、それよりも反発が大きいのが、Spotifyが2024年に導入した「年間1000回再生未満の楽曲には収益を支払わない」というルールです。
これはbot対策的な意味合いもあろうとはいえ、多くのアマチュアミュージシャンにとって極めて夢のない話で、「全体から見れば微々たる利益しか出せていないマイナー楽曲のためのコストを削減し、その分をメジャーアーティストに分配する」という仕組みは大きく批判されました。
②軍事産業への投資
そして、思想的な面で大きな批判があるポイントが、SpotifyのCEOであったダニエル・エク氏が軍事産業に巨額の投資をしていた点です。
その投資先は、ヨーロッパ各国の軍隊と契約を結ぶドイツの防衛AIソフト企業ヘルシング社で、金額は6億ユーロ(当時のレートでも1000億円以上)。
これにより、実際に多くのミュージシャンがSpotifyのボイコットを表明しました。
これらの理由から、ミュージシャンが「Spotify以外で聴いてほしい」と発言することがあるのには一定の納得感があります。
私個人としても、ユーザーとしてSpotifyから別のサブスク配信サービスに乗り換えていた時期がありました。
Spotifyはユーザビリティが圧倒的すぎる
しかし現在、私は自作曲をSpotifyにも配信しており、さらにユーザーとしてもSpotifyに戻ってしまいました。
理由は単純で、なんせSpotifyレベルに使い勝手のいいサービスが他に存在しないのです。
私はSpotifyを使わない間、様々なサブスク配信の有料プランをあちこち乗り換えました。
YouTube Music Premium、Amazon Music Unlimited、Apple Music、さらにLINE MusicやAWA、楽天ミュージックまで、自分からは絶対にファーストチョイスにしないようなものも含め、かなりの数を比較する結果となりました。
そこで実感したのが、Spotifyの圧倒的優位性、もとい他のサービスのダメっぷりです。
(※以下の内容は私が使っていた時点のものであり、その後他のサービスでもアップデートされている可能性はあります。)
まず何より、イメージ通りの直感的な操作がまともにできるのは唯一Spotifyのみです。
「この画面でアーティスト名をタップしたらアーティストのトップページに飛ぶだろうな」とか「この画面でアルバムジャケットをタップしたら収録曲の一覧が見れるだろうな」と思った通りの挙動をする、というのはUIとして最低限だと思うのですが、Spotify以外の音楽サブスクはそもそもそこがクリアできていません。
リンクを作成して共有するのも簡単です。
例えばここに自分の曲を貼るとして、「パッと埋め込みコードを生成でき、貼り付けるだけでプレイヤーが表示される」を実装していないサービスは結構あります。
音量の面でもSpotifyが優勝です。
現代のサブスク配信では、ラウドネスノーマライゼーション(LN)によって最大音量が均されていることが前提といえます。
その仕組み上、どうしてもLNオフよりは音が小さくなってしまうところ、Spotifyには「LNをオンにしたうえで音量を(イコライジングではなく)底上げする」という機能があります。
これにより、スマホからBluetoothでカーオーディオに繋いで聴くとき等にも、わざわざオーディオ側のボリュームを上げずとも十分な音量を出すことができます。
こうしたSpotifyの優位性を鑑みるに、Spotifyに配信しないのは音楽リスナーの快適なリスニング環境を阻害する行為とすらいえます。
結局、私は音楽制作者としてもリスナーとしてもSpotifyから離れることはできないと判断しました。
配信する側の「取り下げ」の難しさ
ミュージシャン側の運用として現実的な問題もあります。
ニュースでは「〇〇がSpotfyから楽曲を取り下げ~」などと書かれていますが、特定の配信サービスでだけ曲を消すのは実際には簡単なことではありません。
各種サブスクに音源をアップするにはディストリビューター(代行業者)を経由しなければなりませんが、そのディストリビューターによっては「個別のサブスクだけ配信を停止することは不可能」、あるいは「そもそも一度配信した楽曲は権利喪失等の理由がなければ取り下げられない」というパターンもあります。
最初からSpotifyには配信しないと決めておかない限り、あとからではどうにもならないケースがあることも理解しておく必要があります。
「〇〇は戦争反対と言ってるのにSpotifyに配信してる!言行不一致だ!」などという批判は的外れです。
「思想」と「ユーザーとしての立ち位置」
さて、これはわざわざ書くメリットがないことなのですが、書かないのもずるい気がするので、私の立場を一定程度明確にしておきます。
私は戦争反対です。
というか誰しもそうでしょう。
ネット上で見かける頭のおかしい排外主義者でさえ「戦争賛成!」などとは言いません。
他方、私は(左巻きと揶揄されることも多かった大阪の某大学の法学部を卒業したうえで)一貫して改憲派です。
これを表明すると、ここまで書いてきた事情を踏まえてなお「お前は大して反戦じゃないから平気でSpotifyを使えるんだろう」と非難してくる人もいるかもしれません。
ただ、これは人によって尺度が大きく異なる話であって、何を重く捉えて何を(相対的に)軽視するか、そしてそこから「個人の言動」と「その成果物/業績への評価」をどこまで切り分けるかは人それぞれです。
身近な例として、有名歌手が反ワクチン陰謀論に染まってしまったとか、人気女優が浅い理解で農業政策を批判していたとか色々ありますが、それにどう反応するかは「もともとその人物にどれぐらい好意があったか」だけでなく「その社会課題に自身がどれだけ関心を寄せてきたか」「賛否いずれかの立場を選ぶことで生じる結果が実生活の中でどれだけ重いウエイトを占めているか」等によって大きく異なります。
私自身、障害者として福祉政策を最重視する結果、改憲に反対する左派野党に投票することはあります。
そもそも、先述のSpotifyのCEOの投資先だったヘルシング社は、ロシアのウクライナ侵攻においてはウクライナ側を支援しています。
「Spotifyを使う奴は戦争への加担者だ!」と雑な主張をするなら、「じゃあお前はSpotifyを使わないことでロシアの侵略への支持を表明しとるんやな?」と雑に切り返されたときに反論できませんよ。
どうしても許せない言動に対し、「この会社の製品は買わない」「この人物が関与している商品は使わない」的な選択をすることは私もあります。
利便性を捨てでも生活から排除するという判断は尊重されるべきです。
しかし、その考えへの同調を他者にまで強いることや、思想が先行しすぎて自縄自縛に陥ることは避けたいものだと思います。

