「PLEK」に関しては、ギタリスト・ベーシストの間では知名度が上がってきていると思いますが、地方に住んでいると「実際にやった」という人はなかなかいません。
で、昨年2018年末に島村楽器がPLEKの受付を開始して気になっていたので、実際に最寄りの店舗経由でPLEKに出してみました。
本記事の内容は2019年時点のものです。
当時機械が設置されていた「名古屋ギターショールーム」は2020年9月に閉店し、島村楽器のPLEK受付は一旦中止されてしまいました。
その後、PLEKは2021年12月にリニューアルした名古屋パルコ店に移設されましたが、名古屋パルコ店に直接持ち込まなければいけなくなってしまい、全国の店舗での受付はできなくなったので注意してください。
本記事はあくまで記録として残しているものです。
楽器の状態
そもそもPLEKとは何か、というのは導入ショップのサイト等を見るほうが早いです。
詳しく知りたい方は国内における総本山、Sleek Eliteのサイトをお読みいただくのが良いかと思います。
さて、私がPLEKしたベースは、Ibanezの7弦ベースを自分でフレットレスに改造したものです。
フレットレス加工後、最終的な指板修正(すり合わせ)は近所のリペアショップに依頼し、特に不満のない仕上がりでした。
しかし、しばらく使っているうちに、特定のポジションでの音詰まりや、単純な弦高調整・ピックアップの高さ調整等では解消しきれない各弦のバランスの悪さを感じるようになってきました。
そこで前から気になっていたPLEKを体験すべく、PLEKを導入しているリペア工房に調整に出すことを考えましたが、ここで田舎暮らしがネックになります。
遠方の工房に楽器を送るには送料もかかりますし、段ボールでの梱包なども手間です。
また、大切な楽器を宅配で送るのは不安ですが、私は現在ハードケースを持っていません。
島村PLEKのメリットとデメリット
そんな私にとって、全国の島村楽器店頭でPLEKを受け付けてもらえるというのは非常にありがたいシステムでした。
ただ、実際に近場の島村楽器(地方のイオンモールに入っている小規模店舗です)に楽器を持ち込んでみると、いくつか注意が必要な点があると感じました。
(※以下、決して批判的な意図ではないことにご留意ください)
島村楽器には、一定の割合で「エレキギターやエレキベースにあまり詳しくない店員さん」がいらっしゃいます。
「7弦ギターの試奏をお願いしたらチューニングをどうしたらいいか聞かれた」なんて話も聞きますし、私自身、ベースのエフェクターの試奏の際、対応してくれた店員さんに「えーと、ベースアンプはどれでしょう…」と言われたことがあります。
ですが、総合楽器店ですからそういう店員さんは別に専門分野を持っていて、管楽器やピアノに凄く詳しかったりするので、「エレキ楽器に詳しくない」という点に着目して店員さんをどうこう言うべきではありません。
とはいえ実際問題として、店員さんの得意分野、あるいは店舗の立地・特性等により、「PLEK」というものの認知度には相当な開きがあると考えた方がよさそうです。
例えば、店舗独自のブログで「ついに島村楽器もPLEK導入!お問い合わせは当店まで!」なんていう記事をアップしているような都市部のお店なら、おそらく受付けはスムーズでしょう。
しかし、私が今回訪ねた店舗ではそうはいきませんでした。
地方店舗ならではの難関
まず、レジにいた女性の店員の方に「すみません、PLEKについてお尋ねしたいんですが…」と声をかけると、「はい?ぷ、ぷれっく???」みたいな反応が返ってきました。
その店員さんが呼んできてくれた男性店員さんも「そんな言葉は初めて聞いた」という様子だったので、私は以下のような内容を説明しました。
「プレック、P・L・E・Kと書くんですが、ギターやベースの状態をスキャンしてリペアできる機械があって、島村楽器さんの名古屋ギターショールームにも導入されました。その受付は全国の島村楽器で可能だとアナウンスされています。ネットで調べても出てきますし、名古屋のお店に電話して聞いてみていただければ確実に分かると思います。」
このあとも「名古屋といっても店舗がいくつかあるのですが、具体的な店舗名は分からないですか?」→「いや、名古屋ギターショールーム、というのが店舗名です」のようなやり取りがあり、楽器を預かってもらうまでが大変でした。
私は事前にいろいろ調べており、あらかじめ弦を新品に張り替え、その弦のメーカーとゲージを記したメモを持参していたので、ここからは比較的スムーズにいきましたが、「PLEK検討してます!色々教えてください!」というノリで来店していたらどうにもならなかったのでは?というのが正直な感想です。
先述の通り、詳しい店員さんがいる店舗なら何の問題もなく受けてもらえるでしょうが、持ち込む店舗の性質によっては「あらかじめ(最寄り店舗ではなく)名古屋ショールームに電話し、事前に確認すべき注意点を聞いておく」「店頭ではまず最初にエレキ楽器に詳しい店員さんがいないかを尋ねる」といった対策が必要かもしれません。
ともあれ、第一段階は終了です。
ギグバッグでの持ち込みでしたが、問題なく受け取ってもらえました。
フレットレスの指板修正自体は手作業!?
ベースを預けてから数日後、最寄店の店員さんから電話がありました。
私はある程度PLEKについて下調べし、多少なりとも分かっているつもりだったのですが、ここで大きな勘違いが発覚します。
「確認不足のまま受け付けてしまって申し訳ありません、お預かりした楽器はフレットレスだったので、島村楽器のPLEKではスキャンデータを取ることしかできず、PLEKの機械で指板を削るところまで完結することはできないようです。指板修正をご希望の場合は、PLEKの測定結果をもとにリペアマンが手作業で削ることになります。」と言われたのです。
PLEKは基本的に、「弦を張ったままでナットやフレットの高さ、ネックの状態をスキャンし、測定結果を数値化できる」という機械です。
そして、そのデータをもとに同じ機械でフレットを削る「すり合わせ」(※このときは当然弦を外す)もすることができ、最終的な仕上がりを再度測定することで、すり合わせ前後の状態の変化を正確に記録することができます。
で、PLEKは「素人でも、誰がやっても全く同じ完璧な状態にネックをセットアップできる魔法の機械」ではありません。
機械の取り扱いの練度、スキャンデータから楽器の状態を判別する経験値、オーナーが楽器に求めているものを引き出して言語化する能力、そして「どうすれば楽器の寿命をいたずらに短くすることなく、オーナーの理想の状態に近付けられるか」を判断する力…といった部分は、施工するリペアマンに大きく依存するようです。
PLEKを導入しているリペアショップは研修をきっちり受けており、そのあたりのバラつきは大きくはないらしいですが、それでもやはり「国内でPLEKに出すならやっぱり総本山のSleek Eliteだ」という意見はよく聞きます。
ですが、今回の件はそういった「リペアマンの技量の話」ではなく、「PLEKのプログラムによるもの」だそうです。
PLEKには多くの更新プログラムが存在し、それによって対応できる楽器の幅が徐々に広がっているのですが、島村楽器のPLEKには契約上「現時点ではフレットレスの指板を削ることができるプログラムが入っていない」ということでした。
にもかかわらず、私は別のリペアショップが公開していた作業工程を見て、「PLEKは当然にフレットレスベースの測定から指板修正までを完結させることができるものだ」と勘違いしていたのです。
島村楽器に限らず、PLEKでのフレットレス指板修正に対応していないお店はあるようです。
とはいえ、PLEKの測定データをもとに指板を削るのは、人の目と経験値に頼った従来の作業とは大きく違うと思います。
「工賃の見積りはPLEKスキャン後でないと出せない」と言われたので、ひとまずは「PLEKスキャン+診断」のメニュー(税別3,000円)を依頼し、指板修正するかどうかはそのあとで判断することになりました。
やはり地方店舗の店員さんを介したやり取りは厳しい
最寄り店に持ち込んでから3週間ちょっと。
ようやくスキャンが完了した旨と、その後の指板修正等の金額に関する連絡をいただきました。
しかし、ここでまたしても問題が発生します。
ある程度想定していたことですが、最寄店の店頭で対応してくれた店員さんがエレキギター・ベースにそこまで詳しい人ではなかった場合、この時点で十分な意思疎通ができないのです。
特に今回は、最初「PLEKって何ですか?」ぐらいの状況からのスタートだったこともあり、エレキ弦楽器の構造にそこまで精通していない店員さんとの電話で、楽器の現状を正確に把握するのは不可能でした。
そこで私は、PLEKを設置している店舗と直接やり取りをさせてもらうことにしました。
PLEKスキャンの結果
その後、電話で対応してくれた名古屋のリペアスタッフさんに教えていただいた内容によると、ざっくり言って私のベースは以下のような状態でした。
・ネックがやや順反り気味であるが、問題になるレベルのねじれ等は現状ない
・指板のRに対し、ナット部分でのRが適切になっておらず、中央寄りの弦のみナット弦高がやや高い状態である
・最終金額としてはPLEKスキャン3,000円、指板とナットの修正で11,000円(作業完了後のPLEK再スキャンを含む)で合計14,000円、そこに送料3,000円を加えて17,000円(税別)
そこまで大きく指板を削る必要がないためなのか分かりませんが、懸念していた金額よりはだいぶ安くなりました。
(※見積りで出してもらった料金なので、他のフレットレスベースでも必ずこの金額になるとは限りません)
フレットがある楽器のPLEKスキャン・擦り合わせ・調整フルコースの料金が13,000円なので、それに近い金額にしてもらえたのかもしれません。
ネックの反り具合に関しては最近あまり細かく見ていなかったのですが、体感としてあまり反っているとは思っていなかったため、どのように改善するのか気になります。
また、特に問題を感じていなかったナット弦高についても追い込む余地があると分かったことは収穫です。
なお、スキャンデータについては、メールで送っていただく、あるいは印刷したものを楽器返却時に同梱してもらうことも可能なようです。
PLEKの機械が動いているところは一度自分で見てみたいですし、可能であれば対面でリペアマンさんとやり取りするのがベターだとは思いますが、名古屋のスタッフさんと直接やり取りできたことで、ある程度お任せして大丈夫そうだという感覚になりました。
ちなみに実際の作業手順としては、指板を削りすぎることを防ぐため、「PLEKでスキャンしてから人の手で指板を少しだけ削り、またPLEKにかけて削り具合をチェックしてから少しだけ削り…を何度も繰り返して作業する」ということだったそうです。
ありがたいやらなんやら、まあ機械で削るのと同等に仕上げるためにはそういう手法になるのでしょうし、他のPLEK導入工房でもこの手法で作業しているのかもしれませんが、「手間考えたら作業工賃安すぎじゃない?」という気持ちになってしまいました。
受け取り後の感想
そして持ち込みから2ヶ月近く経過し、ようやく作業が完了してベースが戻ってきました。
やはり最寄り店の店員さんから詳しい解説をいただくことはできなかったのですが、スキャン結果のプリントアウトと、簡単な説明を記した紙はもらうことができました。
料金は見積りの通り、合計17,000円+消費税。
実際に音を出してみた感想としては、「いやすげえなコレ」という感じです。
気になっていた音詰まりや、特定のポジションで音が引っ込む症状は完全に解消し、弦振動に必要なリリーフが適切なものになったためか、低音域の音程感も明瞭になりました。
私は過去に、「部品交換によらないセットアップで音質を改善する」系の楽器店に何店かリペアに出したことがあるのですが、それらの店舗は例外なく、極めて緻密なフレット擦り合わせが特徴でした。
その手のリペアサービスは3万~5万円程度するのが当たり前で、当時は納得して依頼してきましたが、それと比較してもこの金額でこのクオリティのセッティングができるなら費用対効果は高いと言っていいと思います。
納期は長かったですが、非常に良い結果が得られました。
まあ正直、PLEKを置いているお店が近くにあるなら直接そこに行くべきです。
納期の面でも、直接色々説明が聞けるという面でも、やはり対面の方が良いと思います。
ただ、「近くにPLEK設置工房が無いけどPLEKをやってみたい、けど梱包と発送の手間が面倒だ」という方には島村PLEKは間違いなくおすすめできるものですので、ぜひ検討してみてはいかがと思います。
【※追記】
最初に書いた通り、この全国店舗でのPLEK受付は既に終了しています。