ギターマガジンが2020年6月号で「フェンダー社の権利を保護する」という立場を明確にした件について、以前このブログで触れました。
私はどちらかというと、批判にさらされているギターマガジンを支持する考えでした。
しかし、「フェンダーの商標権の詳しい解説につきましては、ギターマガジン7月号にて掲載を予定しています」と書いてあったので詳報を期待していたのに、実際に7月号を買って読んでみるとまあ期待はずれの酷い内容でした。
今回の騒動に対するスタンス
騒動の経緯については、前の記事で詳しく書いたので割愛します。
結論だけ言うと、ギタマガは「商標権を侵害するギター(今回の話でいえばFenderのヘッド形状を模倣したギターなど)を今後は極力掲載しない」と宣言したわけです。
改めて私のスタンスを説明すると、「(別にFenderは全然好きじゃないけど)基本的には正当な権利者であるフェンダー社を支持する」という感じです。
そしてギターマガジンに対しては、「今まで権利侵害ギターを散々載せてきた総括もせずにそれかよ」とは思いつつも、「楽器業界でなあなあにされてきた点を明確にするなら応援したい」という考えです。
ただ、フェンダー社傘下のブランド(Charvel、EVH等)以外で、非公表で使用料を払ってあのヘッドシェイプを採用しているメーカーがあってもおかしくなく、そのギターを使用しているアーティストが権利方面に疎いケースもあるでしょうから、「掲載可否の判断は大変だろうなあ」とも思っています。
【※脱線】
本件に関連して「Gibsonとか他のメーカーについてはどうなんだよ」という意見を目にして調べてみたんですが、ギブソン社はヘッド形状を権利化できていない一方、(少し前の海外ニュースで勘違いしていましたが)意外とレスポールやフライングVのボディシェイプを日本で商標登録できてるっぽいんですよね。グッズ用とかじゃなくてちゃんと「楽器」の区分で。
余計に大きな問題ですけどコレどう扱うんでしょうね。
なお、フェンダー社が生み出したデザインに話を戻すと、ボディシェイプやピックガードの形状は商標登録されていないので、(極めて不正確な表現であることを前提に書きますが)「ボディやピックガードはパクっても大丈夫」と言えなくもないです。
そこから私は、「フェンダータイプのギター作るなら権利として明確に保護されてるあのヘッドの形だけはパクらないのが最低限のライン、せめてそこだけは筋を通せ」という視点の話をしています。
(脱線おわり)
音楽雑誌は権利問題にどう向き合うべきか論
私はこの7月号を購入する前に、「ギターマガジン(に限らず楽器演奏者向けの音楽雑誌)は本来どうすべきなのか?」というのを自分なりに考えていました。
そして、今回の件に関連する「Fender以外のメーカーが作ったフェンダーヘッドの楽器」を今後どう扱うべきかについて、ざっくりした考えを以下の3点にまとめました。
1.純粋な広告枠に掲載するのはアウトでしょ(「ヘッドを写さなければOK」という考えは個人的にはナシだと思うが、まあ一定期間の抜け道として残るのはやむなしか)
2.新製品紹介への掲載もアウト、でも新譜レビューのアルバムジャケットに映ってるような場合はセーフにしてほしいなあ
3.アーティスト機材紹介での掲載も原則アウトにすべき、ただしフェンダー社が商標権を押さえていない時期に作られた楽器はセーフだと思う
3番目に関してはどういうことかというと、前の記事でも書いた通り、日本国内でフェンダー社がストラトのヘッド形状を権利化したのは2003年6月13日です。
(※これはあくまで「無料のウェブサービスで今確認できる情報だけから判断すれば」という話で、実際にはもっと前から権利化されていた可能性もあります)
J-PlatPat(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)の検索結果より引用
仮にこの前提が正しいとすれば、(国内流通に限った話ですが)それより前に製造された楽器はFenderのヘッド形状をパクっていたとしてもフェンダー社の権利を侵害したとは言えないはずなわけです。一応。たぶん。形式上は。
道義的な話は一旦置いといて、ギターマガジンの「知的財産権を侵害した楽器を掲載しない」という趣旨からすれば、「1990年代に作られた他社製フェンダーヘッドギターをアーティスト機材紹介のページに載せる」のはセーフなように思えます。
この考えの正当性にはあまり自信がないのですが、その手の楽器まで掲載しないのはフェンダーへの過剰な忖度に感じますし、「このヘッド形状は現在はフェンダー社の登録商標です」と注記すれば足りるのではないでしょうか。
結局ダメなギターマガジン
…とまあ色々なことを考えながら、「ギターマガジン7月号、これぐらいの内容は載せてくれてるよなあ」と思いながら買ったわけですが、「フェンダー再入門」と銘打った記事の内容はあまりにお粗末なものでした。
前号であれだけぶち上げたにもかかわらず、テレキャスターやストラトキャスターといった代表機種を紹介しただけで、商標権に関する説明は一切なし。今後の方針や掲載基準に関する話もゼロ。
本国アメリカを含む海外でのフェンダー商標や、日本におけるフェンダーの商標管理の歴史なんかを期待していた私にとって、やらない方がマシなぐらいの極めて薄い内容でした。
私が強く問題視しているのは、作り手・売り手だけでなくユーザーも含め、楽器業界の権利意識があまりも希薄なことです。
それだけに、「この現状に一石を投じてくれるのでは?」と期待していたギターマガジンの今回の体たらくには、正直失望しています。
こんな内容でお茶を濁すようでは、フェンダー擁護派も個人工房擁護派も納得しないでしょう。
楽器業界もうちょっとなんとかしてください
とまあフェンダー寄りの立場で色々と書きましたが、実際のところ、国内メーカーが優秀な弁護士や弁理士とともに無効審判を仕掛ける勝負に出たら、フェンダーヘッドの商標登録の方が取り消される可能性もゼロではないのかな?と思ったりもしています(脱線で触れたギブソンのボディシェイプも同様)。
それはさすがに実現の見込みが薄いとしても、実際の権利者が誰かを明確にしたいというよりは、「楽器業界はもっと権利関係をシビアに見るべきだ」という考えを広めたいのがこんなブログを書いている一番の動機です。
本家にケンカ売る気がないならパクるな!パクりたいなら万全を期してケンカを売れ!
なお、前号でちょっと話題になったサウンドハウスのPLAYTECHの広告ですが、7月号ではヘッドを隠してボディだけが映った写真になっていました。
ちなみに他の安ギターメーカーだと、サクラ楽器のSELDERなんかは少し前にヘッドシェイプを変更したようです。
多くのメーカーが無節操にフェンダーのヘッドシェイプをパクってきたことが現在の状況を招いている一因なので、まずは「ストラトタイプのギターはFenderと同じ形のヘッドなのが当たり前」のような雰囲気を一掃するのが権利意識を高める第一歩だと思います。
今回色々と調べる中で、「Fenderのパクリにならないようにミリ単位でデザインを修正している」なんてことを言っている人がいたのも目にしましたが、事実だとしたらやはり楽器業界はあまりに権利意識が低すぎます。
そんなよく見ないと分からないような差で権利侵害を回避できるか!
各メーカーはもっとトレードマークとなるようなヘッドデザインを考えて、「うちのギターをFenderなんかと一緒にされちゃ困るぜ」という気概を示してほしいです。
あとギターマガジンはやるならもうちょっと真面目にやってください。
【後日追記】
PLAYTECHもヘッドデザインが変更になりました。