鬱病の方や発達障害の方が精神障害者手帳を取得しようとする際、「障害者手帳を取ることを家族に相談したが、反対されてやめるよう言われた」というようなケースは珍しくないようです。
ただ実際、全く知識のない状態で家族や友人から「精神障害の手帳を取ろうと思うんだけど」といきなり言われたら戸惑うでしょうし、メリットよりもデメリットの方を想像して心配になると思います。
ちょっときっかけがあって色々と考えたので、今回は「精神障害者手帳の取得についてどのような反対意見がありえるか」を想定し、それに対して家族をどう説得するかという視点で私の考えをまとめておこうと思います。
相談を受ける側の人の心配事についても、何かしらの参考になればと思います。
私自身が取得しているのは精神障害の最も軽い3級ですので、言葉を選ばずに言えば「ギリギリ障害者」というぐらいの立ち位置です。
この記事では、基本的にそれぐらいの「障害者手帳を取らなくても一応生活はできるけど、取ったら取ったでメリットがある」ぐらいの人を想定しています。
私が精神障害者手帳を取得するまで
はじめに、私が精神障害者手帳を取るまでの経緯を書いておきます。
私は若い頃から障害者手帳を保有していたわけではなく、手帳を取得したのは2019年、34歳のときです。
大学卒業後に健常者として就職した私は、30歳ごろまでは会社員として働いていました。
しかし、30代にもなると役職がつき、後輩の指導や難易度の高い業務の成果も求められるようになります。
同期が順調にキャリアアップしていく一方で、私は仕事が回せなくなって重い鬱症状を発症し、会社に行けなくなってしまいました。
その後、自身の発達障害特性を自覚した私は、検査を受けてASDの診断がつき、精神障害3級の手帳を取得。
その後は現在に至るまで障害者雇用で働いています。
「精神障害者」への偏見
「精神障害者手帳を取得する」となったときに、周囲から最も心配されるのが精神障害者に対する印象の悪さでしょう。
報道での取り扱われ方が適切かどうかは置いといて、大きな事件があった時に「容疑者が精神的な障害を抱えていた」という点がニュース等でクローズアップされることは珍しくありません。
そうでなくとも、精神障害者と聞くと「何かちょっとアブない奴」的な印象を持つ人は正直多いわけです。
「精神障害の手帳を取ったら変質者や犯罪者のように扱われ、差別されるのでは?」と心配されるのはある意味当然といえます。
ただ、実際に精神障害者手帳を取得したところで、「私は精神障害者です」と公言するようなシーンはめったにありません。
私自身、手帳を人に見せるのは役所での手続き等、障害者であることの証明が必要な時や、何らかの助けを求める時ぐらいなものです。
職場では障害者雇用であることを公言していますが、それは業務指示のルートや業務量に配慮いただくうえで必要なことであり、それがあるからこそ健康に働けています。
確かに、「さほど交流のない近所のおばちゃんに精神障害者手帳持ちであることがバレる」ということでもあれば、変な噂を立てられるリスクになるかもしれません。
しかし、日常生活においては、自分から障害者手帳を見せびらかしでもしない限り「あいつ精神障害者だ!」とバレることはそうそう無いので、そのような偏見を過剰に心配する必要はないのではないかと思います。
「普通の仕事に就けなくなるというデメリット」の真偽
障害者手帳取得に際する心配として、悪い言い方ですが「障害者の烙印を押されたら一生まともな仕事に就けなくなるのでは?」というのもあります。
確かに、障害者向けの仕事は、一般就労の仕事と比べて給料が安いことが多いです。
家族から支援してもらうのが前提になるような低賃金では、自立して一人で暮らすなど難しいのが実情です。
ただ、このような文脈で「まともな仕事に就けなくなる」と言っている人は、知的障害の方向けの単純作業や清掃業務みたいなものだけをイメージしているのではないかと思います。
しかし実際のところ、障害者雇用の仕事は事務職やプログラミング関係など、意外と多岐に渡ります。
過去に職務経験がある人ならば、障害者向けの転職支援サービスなども利用し、経験を活かした仕事を探すだけの価値はあるでしょう。
職種によりますが、中には一般就労なみに高い給料の求人も存在します。
あるいは、「以前から働いている会社に在籍したままの状態で障害者手帳を取得し、障害者雇用に切り替えてもらう」という方法により、転職することもなく少し年収が下がっただけで済んだ(障害への配慮も受けられる)という成功例を聞いたこともあります。
「現時点で会社員として働いており、かつ職場環境も悪くない」という人には、こういう選択肢もありかと思います。
「障害者」はやめられる
先の「障害者になったら一生まともな仕事に就けない」に関しては、仕事の面以外からも反論の余地があります。
それが、(物凄く語弊のある表現ですが)「一度精神障害者になっても障害者をやめることは可能」という点です。
精神障害者手帳は2年の期限がある更新制であるため、更新しないことで「障害者ではなくなる」ということもできなくはないのです。
「せっかく手帳取得はしたけど自分には特にメリットが無かったな」という場合にはこのような選択肢もある、ということを前提に検討すれば、手帳取得への抵抗感もいくぶん和らぐのではないかと思います。
「発達障害ビジネス」的なものへの不安
発達障害の情報に日頃からアンテナを立てていると忘れがちですが、今なお世間の人の大半は「発達障害」というものなどよく知りません。
そして、中途半端に知識がある人だと、「発達障害の検査を受けようと思う」という相談に対して「怪しい医者に感化されたのでは?」「変なビジネスに騙されているのでは?」という方向の心配をする可能性があります。
これも心情としては理解できます。
いくら一般化してきたとはいえ、精神科や心療内科は多くの人にとってハードルが高く、実態が不明です。
「鬱病の治療は薬漬けにされる」というようなイメージもまだ根強いでしょう。
そのような観点からすると、「発達障害は金になるからと無用な検査を受けさせられそうになっているのでは?」と考えるのもありえる話です。
このような場合、「専門的な支援機関から紹介された病院で検査を受ける」というのが一定の説得力を持つのではないかと思います。
私自身、県の「発達障害者支援センター」で発達障害の検査ができる病院を教えてもらいました。
もちろん、それによって必ず良い病院に当たるという保障はありません。
なかなか予約できないことも多いですし、検査を受けても発達障害の診断がつかないグレーゾーンの可能性があることは大前提です。
発達障害と診断されたとしても、(過去の通院歴にもよりますが)そこから手帳申請まで半年空く場合があります。
とはいえ、検査を受ける病院を探しているのであれば、自分が住んでいる都道府県の「発達障害者支援センター」に問い合わせてみる価値はあるでしょう。
家族をどう説得するか
ここまでの内容とは関係なく、「家族のことは無視して全部自分で勝手にやる」という選択肢を考えている方もいらっしゃると思います。
家族の理解やサポートがあるに越したことはありませんが、やむを得ず「家族を頼らない」と決めるケースもあります。
とはいえ、現実問題として、(病院によって違うかもしれませんが)発達障害検査の中には家族に記入してもらわないといけないもの(MSPA事前アンケート)があります。
それが診断結果にも影響してくる以上、家族の不安を払拭する方向での説得を試みるべきでしょう。
例えば私のように「以前は働いていたが働けなくなってしまった」というケースであれば、
・再び働いてお金を稼げるようになりたいが、再就職してもまた鬱が悪化してしまい、すぐに仕事を辞める羽目になるかもしれない。
・障害者雇用で働くことができれば、求められるレベルも高くはないし、配慮してもらいながら長く働けるのではないかと思う。
・全く働けない今の状態よりは、給料が下がっても健康に働ける方が絶対いい。
という方向の説明が考えられます。
また、検査に関して不安に思われているのであれば、
・確かに発達障害の検査は、体の病気の検査のように正確なものではないかもしれないが、IQテストによって能力の特性が分かるので、今後の仕事探しの上で、自分の得意不得意を知るためにも病院で検査を受けておきたい。
・検査の結果、何らかの障害の診断がつくかは分からないが、仮に発達障害だと診断された場合でも、実際に障害者手帳の申請をするかどうかは改めてちゃんと考える。
・もし発達障害であれば障害者手帳の分類上は精神障害になるが、精神障害者手帳は2年ごとの更新なので、更新せずに障害者の立場を返上することもできる。
という感じの内容だと、反対意見をある程度は説得できるかと思います。
発達障害を抱えて生きていくうえで、家族が邪魔にしかならないケースは実際にありえます。
そのような場合は、「家族の反対に耳を貸さない」「そもそも家族に相談しない」という選択肢ももちろんあります。
しかし、もし家族を説得して協力が得られるのであればその方がよいと私は考えています。
この記事を読んでいる方の状況は分かりませんが、少しでも状況が好転することをお祈りしています。